債務について

4つの住宅資金特別条項と実際の利用状況

4つの住宅資金特別条項と実際の利用状況

住宅資金特別条項とは?

任意整理では解決できない(おおむね500万円以上の)債務を抱える方が、破産を避けようと考える理由の多くは、自宅を残したいという点にあります。

個人再生を利用する方の半数以上は、住宅ローン特約(住宅資金特別条項)を利用しています。
住宅ローンを滞納するなどして返済が難しくなった人のために、個人再生では、以下4つの方法が用意されています。

1 期限の利益回復型(・約定型) 

   滞納分を分割して月々の支払額に上乗せ、または一括で支払う(※1)。

2 リスケジュール型 

   月々の支払額を増やさず、返済期間を延長することで負担を軽減する(※2)。

3 元本猶予期間併用型

   一定期間、元本の支払いを猶予し、その後の返済額を調整する(※2)。

4 同意型 

  住宅ローン債権者と協議の上、支払額や返済期間を変更する。

使われてない住宅資金特別条項とその理由

上記のとおり、法律上は、住宅ローンの支払額を軽減し、当初の条件を組替えるのための住宅資金特別条項の定め方が用意されています。
しかし、実際に住宅ローン特約付き個人再生を利用する方のほとんどは、約定どおり返済する方法を選択しており、1,2,3,4の仕組みを利用して住宅ローンの支払月額を変更することはめったにありません。当事務所の実感としては申立100件に1件程度しかありません(※3)。

債務の返済が苦しくなる場合、住宅ローンの支払月額を減らせると家計は助かるはずです。なぜあまり利用されないのか、今回はその原因と実情を説明します。

 

結論から言うと、次の3つが理由になります。

【Ⅰ】優遇金利が適用されなくなる
【Ⅱ】組替えを必要とする世帯の実情
【Ⅲ】計算が難しい

以下、詳しく見ていきましょう。

 

【Ⅰ】優遇金利が適用されなくなる

住宅ローンを新規契約する際、長期延滞しないことなどを条件に、店頭金利よりも1~2%程度の優遇金利が適用されるケースが一般的です。
例えば、店頭金利2.7%の変動金利が、優遇金利により0.7%になることがあります。

しかし、延滞が続くと、この優遇措置が失われ、通常の店頭金利に戻ってしまいます。上記の住宅資金特別条項にしたがい、組替えを行った場合にも、多くの場合で、優遇措置が失われることになります。

仮に、2,500万円のローン残高がある場合、1年間で約50万円4,000万円のローン残高なら約80万円の利息負担が増加する可能性があります。
このような利息負担の増加を避ける目的から、多少無理をしてでも滞納分を解消し、約定どおりの返済を続けるケースが多いのが実情です。

なお、ボーナス併用型のローンを毎月均等払いに変更したり、2カ月だけ支払額を減額して後の返済額に上乗せするなど、年間の支払総額を変えない範囲での調整であれば、延滞扱いとならず、優遇金利を維持できる可能性があります。
このような場合は、ローン会社に相談するとよいでしょう。

 

【Ⅱ】組替えを必要とする世帯の実情

住宅ローンは長期間にわたり毎月一定額が引き落とされるため、契約をした多くの世帯では、給与振込口座を引落先に指定したりするなど、確実に返済できるように管理を行っています。
それにもかかわらず住宅ローンを滞納している場合、すでに家計が破綻している可能性が高いです。

 

  • 入金があってもすぐに収入を使い果たしてしまう
  • 他の債務返済のために資金を回さなければならない
  • 固定資産税や管理費も長期滞納している

 

このような状況では、住宅ローンを組み替えても根本的な解決にはなりません。
また、組み替えによって金利優遇が失われることで、将来的に住宅ローンの返済がさらに厳しくなるリスクもあります。
そのため、延滞が生じている世帯でも、住宅ローンの組み替えを利用するケースは少ないのが現状です。

 

【Ⅲ】計算が難しい

個人再生手続きでは、1.期限の利益回復型、2.リスケジュール型、3.元本猶予併用型を利用する場合、住宅ローン債権者の同意は不要です。
しかし、支払期間や支払額が変更されることで、毎月の元金充当額や利息計算が変わるため、正確な計算が難しくなります。

 

そのため、組替えが必要な場合、多くの場合は住宅ローン会社に計算を依頼する4.同意型が選択されます
実際には、住宅ローンの組み替えを行う場合、ほとんどが4.同意型となり、2.リスケジュール型や3.元本猶予併用型は利用されていません。

 

なお、1,2,3のいずれの方式でも、4.同意型であっても、住宅ローンの残額自体が減額されることはありません。
この点は特に注意が必要です。

 

まとめ

今回は、住宅ローン特約(住宅資金特別条項)には4つの種類があることをご紹介しました。
また、

  1. 住宅ローンの組み替えを行うと、優遇金利が失われ、将来の負担が増す
  2. 住宅ローンを滞納している世帯は、すでに家計が厳しく、組み替えだけでは解決しない
  3. リスケジュール型や、元本猶予併用型は計算が複雑で利用されにくい

 

といった理由から、あまり使われていない現状をご説明いたしました。
住宅を守ることを優先的に考えるのであれば、住宅ローンや税金の滞納が発生しないよう、十分に注意することが重要です。

 

<注釈>
※1 延滞がなく、約定通りの支払いを続ける場合は、1の期限の利益喪失型の一種として扱われます。
※2 民事再生法上は、1の期限の利益回復型では履行が難しい場合に2のリスケジュール型、それでも難しい場合にのみ3の元本猶予期間並行型、というように、利用に際する優劣関係があります。なお、同意型は債権者の同意が取れればどのような状況でも利用可能です。
※3 代位弁済を受けた場合の「巻戻し事案」はここに含めていません。巻き戻しは40-50件に1件ほどあります。

監修者情報

弁護士

吉田浩司(よしだこうじ)

専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)

2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。