個人再生を利用する住宅ローン利用者の特徴と注意点
平均的な住宅ローン利用者と個人再生を利用する住宅ローン利用者の違い
前回の記事【住宅ローン金利の実情と再生の関係】では、住宅ローンの変動金利型の実情や個人再生との関係について説明しました。
今回は、住宅金融支援機構が公表している住宅ローン利用者の一般的な傾向を示したうえで、実際に個人再生を利用する住宅ローン利用者との共通点や、違い、再生の注意点について解説します。
みなさんがそれぞれ持っている住宅ローンの利用内容についての先入観と、現状の利用内容が大きく違っていることが分かるかもしれません。
住宅ローンを契約中の方はもちろん、将来住宅ローンを組むことを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
1. 平均的な住宅ローン利用者
2. 個人再生を利用する住宅ローン利用者
3. まとめ
1. 平均的な住宅ローン利用者
(1) 返済期間・融資率
住宅金融支援機構が毎年公表する「住宅ローン利用者調査」の調査結果によれば、住宅ローン利用者の平均的な傾向が確認できます。
- 返済期間: 平均的な返済期間は30~35年が一般的ですが、35~40年のローンを組む例も増加傾向にあります。
- 融資率: 購入価格に対する借入金の割合(融資率)は、一般的に70~90%程度であり、半数以上がこの範囲で借りています。ただし、90%以上の高融資率で借りる人も10%前後(2024年10月は11.7%)います。
(2) 平均年収と返済負担率
- 平均年収:住宅ローンを組む方の年収で最も多いのは400~600万円(31.1%)、次いで600~800万円(21.2%)となっており、400~800万円の層が全体の50%以上を占めます。
- フラット35(固定金利型)利用者の平均世帯年収は661万円(2023年度)です。
- なお、これらの年収額は税・社会保険料などが控除される前の額面です。手取りの収入額はこれよりも少なくなります。
実感として400万円以下の収入で住宅ローンを組むのはかなり難しいのではないかと思われます。
ただし、後述のように夫婦共稼ぎで、どちらもローンを組むなどの方法であれば、返していくことは可能と思われます。
返済負担率
- 返済負担率とは、世帯収入に占める住宅ローンの返済額の割合を指します。
- 調査結果では、約半数の利用者が返済負担率20%以下に抑えていますが、30%以上の世帯も一定数存在します。
- フラット35利用者の平均返済負担率は23.4%です。
(3) ペアローン・収入合算
2024年の調査結果からは、共働き世帯の増加に伴い、ペアローンや収入合算の利用が増えていることが確認できます。
ペアローン
- 夫婦がそれぞれ住宅ローンを申し込み、一つの物件を購入する方法です。
住宅ローン控除を夫婦双方が利用できるメリットがありますが、審査・契約の手続きが煩雑になる点がデメリットです。
収入合算
- 夫のローン審査の際に妻の収入を合算して借入可能額を増やす方法です。
合算した配偶者は、一般的には連帯債務者または連帯保証人になります。
住宅金融支援機構の調査報告によると、ペアローン利用者は26.4%、収入合算利用者は12.6%で、約40%の夫婦がこれらの制度を活用しています。
特に20~30代の夫婦では、半数程度がいずれか利用しているのが現状です。
ペアローンはどちらもローンを組み、しかも双方の債務を保証し合う内容になるので、弁護士の目からはハイリスクなローンに見えます。
それでも、今は不動産の価格が上がっており、ペアローンでなければ購入できない若年夫婦が増えているのかもしれません。
(住宅ローン控除が二人とも使えるという節税メリットも、利用を後押ししているかもしれません。)
2. 個人再生を利用する住宅ローン利用者
(1) 返済期間・融資率
当事務所の実感
当事務所が取り扱う個人再生案件(特に住宅ローン特約付き個人再生)の利用者には、以下の特徴があります。
- 返済期間: 5年以上20年以内のケースが多く、ローン契約後1~2年内など借入からまもない利用者は少ないです。
- 融資率: 100%ローンを利用しているケースが圧倒的に多く、保証料・火災保険・外構工事費などを補うために別途高利率のローンを組んでいる方も多く見られます。
借りてまもなく再生を求めて相談される方もいますが、そういう方は生活苦とは別の理由で相談に来られる方です。
ローン完済間近、あるいは融資率の低い方も相談には来られますが、住宅を売ると債務が減らせるため、再生よりも先にそちらを選択する方が多い印象です。
(2) 平均年収と返済負担率
年収、返済負担率には大差なし
- 平均年収: 400~800万円の範囲で、一般的な住宅ローン利用者と大きな違いはありません。
- 返済負担率: 30%以上の世帯はあまり多くなく、たいてい月収の30%以内に収まっています。
(3) ペアローン・収入合算
ペアローンはまだ少ない
- 収入合算: 収入合算を利用している世帯が約半数を占めます。
- ペアローン: 住宅ローン特約付き個人再生を申請する利用者のうち、ペアローンを利用している割合は1割以下です。
再生手続きにおける影響
配偶者が連帯債務者または連帯保証人になっている場合、裁判所から債権者として記載を求められることがあります。
離婚後、ペアローン又は収入合算型で返済を続けている方々が、(元)配偶者を債権者として記載することについては、強い心理的抵抗を示す方もおられます。
当事務所では、できるだけ依頼者の意向に沿って、債権者から除外して申立てようとするのですが、裁判所から指示された場合にはやむを得ず掲載することがあります。
また、大阪地方裁判所ではペアローンを利用している場合、原則として夫婦双方が個人再生を申し立てる必要があります。
一方、東京などの地域では、選任された再生委員の判断により、単独でのペアローン申立が認められるケースもあるようです。
3. まとめ
住居費全体の負担額をよく考えて
近年の不動産価格高騰の影響もあり、住宅ローンの借入額が増加傾向にあります。
(その影響から、前回の記事でもお伝えしたとおり、今は金利の安い変動金利型を選ぶ利用者が増えています。)
年収600万円の世帯で返済負担率20%の場合、年間返済額は120万円(月額10万円)、年収800万円なら年間160万円(月額13.4万円)となります。
また、住宅を維持するには、ローン以外の負担も考慮する必要があります。
具体的には、戸建ての場合は固定資産税や設備の交換費用、マンションの場合は管理費や修繕積立金などの追加費用も定期的に発生します。
これらを考慮すると、年収600~800万円の世帯であっても、返済負担率は20%、具体的には住宅ローンの月額負担は10~12万円程度に抑えるのが安全です。
パートナーが返せないときのことも考えて
ペアローンや収入合算の増加により、夫婦でローンを負担するケースが増えています。
しかし、病気・失業・別居などのリスクがあることも考慮すべきです。
さらに、個人再生を申請する際、これらの契約では配偶者の関与が必要になるケースも多く、債務原因を打ち明けるのに苦労する例も見受けられます。
当事務所の傾向
当事務所では15年のあいだ個人再生相談を受けています。
受任するケースは、殆どが「夫がローン契約者で妻はローンなし(あっても保証人)。フルローンでオーバーローン」が殆どだったのですが、
ここ2,3年はペアローンや収入合算がじわじわと増えつつあります。
再生を希望する依頼者は、半数程度が事業や生活上(教育費)の負債が理由の方です。
しかし、残りはギャンブルや飲食費など浪費が原因の方です。このような場合、配偶者に再生の理由など詳しく言えない方も多く、住宅ローンの形式によっては妻の協力が必須になり、申立てに苦労される方もいます。
住宅ローンを組む際は、将来のライフプランを見据えて慎重に判断することが重要です。
参考URL 住宅金融支援機構 住宅ローン利用者の実態調査
監修者情報

弁護士
吉田浩司(よしだこうじ)
専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)
2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。