債務について

保証した奨学金、賃貸物件はどうする?どうなる?(保証人が再生するとき)

 

個人再生手続きにおける保証債務の取り扱い

個人再生手続きでは、保証債務も含めてすべての債務を処理する必要があります。
もしあなたが保証人として債務を負っている場合、その処理が主債務者にどのような影響を及ぼすのかを理解しておくことが重要です。

ここでは、個人再生手続きにおける保証債務の取り扱いについて説明します。


1 申立前に保証人を変更し、手続きから除外する場合

保証債務と再生手続き

個人再生手続きを申し立てる際には、原則としてすべての債務を裁判所に申告します。

たとえば、奨学金の保証人である親が個人再生を利用する場合、奨学金の滞納がなくても、保証人であることを裁判所に申告する必要があります。
また、奨学金の団体にも、保証人が再生手続きを申立てる旨を通知しなければなりません。

保証人が個人再生手続きで債務を圧縮すると、その保証債務は担保としての役割が果たせません。
この場合、主債務者(借りた人)は、債権者から保証人の変更を求められたり、場合によっては分割返済中の債務を一括返済するよう求められたりすることがあります。

ただし、保証債務の種類によっては、事前の対応で主債務者への影響を最小限に抑えることが可能です。
たとえば、賃貸物件の連帯保証人や、奨学金の保証人の場合、再生手続きの申立前に代わりの保証人を届け出て交代することで、 再生手続きから除外することができる場合があります。

日本学生支援機構を例にした実際の保証人変更については別記事で紹介しています。

https://www.kojin-saisei.jp/column/5307/

交代によるメリット

保証人を交代することで、再生する人(交代してもらった元保証人)にとってもメリットがあります。
保証債務が減るため、個人再生手続きで支払う債務総額が減り、毎月の返済額が軽減されます。
これにより家計に余裕が生まれ、最終的に個人再生手続の認可が得られる可能性が上がります。

 

保証人を交代するには、主債務者との親族関係、あるいは一定以上の収入などが要求される場合もあります。
必ずしも申立前に交代できるとは限りませんが、そのメリットは大きいので、可能性があればご検討ください。

なお、奨学金を自分自身が借りている方が個人再生手続を実施する場合に保証人に与える影響については、別の記事で詳しくご説明しています。
該当する方は、ご参照ください。

【タイトル】再生すると保証人に迷惑がかかる?―奨学金と個人再生2

https://www.kojin-saisei.jp/column/5313/

 

2  再生手続きに組み込む場合

保証人を事前に変更できなかった場合、保証債務は個人再生手続きの対象となります。

再生手続きでは、債務額が大幅に圧縮され、通常は元の債務額の10%~20%を分割して返済する計画が立てられます。
保証債務についても、圧縮後の金額を一定期間内で分割返済することが予定されます。

(ただし、滞納が生じていない賃貸保証の場合、弁済は求められません。)

主債務者と保証人の返済状況

借入金の保証債務の場合、主債務者(借り手)はすでに月々の返済を行っているケースが一般的です。
この状況で保証人が個人再生手続きを行うと、再生認可後は主債務者が従来どおり返済を続ける一方で、保証人も圧縮された保証債務を返済する形になります。

この場合、主債務者が元の債務額(100%)を返済しつつ、保証人が再生計画に基づく圧縮後の債務(20%など)を返済します。
そうすると、合計で債務額の110%~120%が返済される可能性があります。

この場合、「払いすぎ」になってしまうのではないかと心配する方もいるかもしれません。
実際の個人再生案件では、債権者への二重払いを回避するために、以下のような方法が採用されることが多いです。

再生計画における保証債務の扱い

(1)保証債務の返済計画を作成しつつ、主債務者の返済が続いている間は実際の支払いを保留とする方法

この方法では、保証債務の返済計画自体は含めますが、実際の支払いは主債務者の返済状況に応じて調整されます。

(2)債権者が主債務と保証債務の返済を同時に受け取り、過払いが発生しないよう債権者側で管理する方法

この方法では、債権者が主債務者と保証人からの返済を一元的に管理し、適切に調整します。
先にお示ししたとおり、主債務者は予定通りの返済を続け、保証人も10~20%の返済を行うので予定していた期間よりも早期に完済することがあります。

なお、当事務所では例がありませんが、(3)「主債務者の返済が継続している間、保証債務の支払いを留保する再生計画案」を作成する場合もあるようです。

実際に多い返済方法

どの方法を採用するかは、債権者の意向が大きく影響します。

そのため、個人再生を進める際には、債権者と適切に調整しながら再生計画案を作成することが重要です。

弊所では、債権者の管理負担を軽減し、個人再生手続きを円滑に進めるために、(1)の方法を提案するケースがほとんどです。

(1)保証人の支払いがない場合の利点

(1)の方法では、保証人にとっては、さしあたり支払いが不要であるため、手許の資金に余裕ができるメリットがあります。
主債務者が返済を継続している場合、債権者から当方の提案に反対されることはほとんどなく、実際にも(1)の方法で手続きが進むケースが多い印象です。

ただし、(1)の方法を採用する場合でも、主債務者の返済が止まった場合には注意が必要です。
このような場合、債権者から「支払いを留保していた再生手続きで圧縮された保証債務分」を一括で支払うよう要求される可能性があります。

もし保証人がこの時点で一括支払いに必要な資金を用意できない場合、再生計画に基づく支払いが滞り、最悪の場合、再生計画が取消されるリスクがあります。
そのため、(1)の方法を選択する場合には、保証債務分を計画的に貯蓄しておくことがとても大切です。

債権者による対応の違い

なお、すべての債権者が(1)の方法に応じるわけではありません。
債権者によっては、再生計画に基づいた保証債務の支払いを要求される場合があります。

たとえば、自動車ローンの精算(信販会社)や奨学金(日本学生支援機構)においては、(2)の方法を希望された例もあります。

(2)の方法で、再生手続で保証人が一部支払った場合、その弁済金は、主債務者に返してもらうのかどうか(これを求償(きゅうしょう)といいます。)話合う必要があります。

3 まとめ

保証債務を再生手続きに含めることは、弁護士から言われないと気付かないケースが多く、再生手続で忘れがちの債務になります。

また、理論上は他の債務と同じく10~20%の返済義務があるものの、債権者の意向や取扱いによってその支払方法が変わります。

債務整理を検討中の方で、保証債務がある場合、お早めに弁護士に相談されることをお勧めいたします。

以上

 

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監修者情報

弁護士

吉田浩司(よしだこうじ)

専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)

2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。