遅れた支払いは再生でどうなる?債務別の傾向と対策
キャッシング、住宅ローン、税金支払いが遅れるとどうなるのか、その傾向と対策を徹底解説
毎月やってくる返済日、支払いが遅れないように他から借りて返済し、また次の返済日には借入を重ねる…このような状態を「多重債務(たじゅうさいむ)」といいます。
多重債務が解消できない方や、返しきれない高額の債務を抱えた方は、いつかは返済できなくなり、支払期限を過ぎる日がやってきます。支払いが滞ったらどうなるのでしょうか。
今回の記事では、もし支払いが滞った場合、債権者はどのような対応をするのか、業者、種類別に詳しくご説明したいと思います。
※以下は、当事務所が取り扱う個人再生を含む債務整理において、よくみられる債権者の対応を紹介したものです。実際に債権者がどのような措置を講じるのかは、事案によって異なりますので、あらかじめご了承ください。
【もくじ】
〇消費者金融、信販会社の支払遅れ
〇銀行、信用金庫、信用組合の支払遅れ
〇住宅ローンの支払遅れ
〇税金の支払遅れ
〇まとめ
〇消費者金融、信販会社の支払遅れ
消費者金融、信販会社の具体例
消費者金融とは、個人を対象にした10万円~200万円くらいまでの無担保融資を主に行う貸金業者です。アコム、アイフル、レイク、プロミスなどが有名です。
信販会社とは、信用販売(クレジット)取引を主な業務とする会社であり、オリコ、ジャックス、アプラス、三菱UFJニコス、クレディセゾン、三井住友カードなどが代表的な信販会社です。
支払を遅れるとどうなる?
予定した支払期日を遅れると、遅延損害金が発生します。遅延損害金は、所定の利息よりも高利率で設定されていることが多いので注意してください。
遅延損害金の発生と同時に、債権者から電話や書面での督促がはじまります。督促を無視しつづけると、裁判所を通じて「支払督促(しはらいとくそく)」や「訴訟(そしょう)」を申立てられ、いわゆる裁判が予告されます。裁判に応答しなければ、判決が出るなどして、その後は強制執行(いわゆる預金や給料への差押え等)が実行される場合があります。
電話や書面による督促から、裁判所を通じた手続きへと進むまでの時間的な猶予は業者によってさまざまです。
たとえば、三井住友カード(旧社名モビット含む)は、2~3か月の延滞でも裁判手続きに移行することがあり、比較的早い印象があります。それ以外の会社でも、6ヵ月以上支払いせずにいると裁判手続きに移ることが多いです。
裁判を回避するには、どうしたらよい?
所定の月額全部を払えない場合、まずは請求先に連絡して、利息だけ払う、1万円だけ払うなどの分割を申し入れてみてください。(これを、業界用語で「リスケ」(:リスケジュール)といいます)。これまで返済を続けてきた方に対し、業者はリスケに応じ、支払額や期間の猶予してくれることが多いです。
ただし、一時的に猶予してもらっても、いつまでもそれを続けることはできません。リスケしてもなお支払いが難しくなったときは、弁護士に依頼して、任意整理、個人再生、自己破産など債務整理の準備に入りましょう。弁護士から、債務整理の方針を債権者に通知してもらうと、しばらくの間は訴訟せず待ってくれる業者が多いです。なお、負債額が高額だったり、弁護士依頼前の延滞期間が長いなどの事情がある場合、弁護士が介入しても訴訟を提起してくる場合があります。
〇銀行、信用金庫、信用組合の支払遅れ
支払が遅れるとどうなる?
銀行、信用金庫、信用組合から融資を受ける場合、大きく分けると無担保ローン(フリーローン)、保証協会付きの(主に事業用)融資、不動産を担保にしたローンの3つがあります。それぞれ貸し側の対応は異なります。
フリーローン
銀行や信金も、消費者金融などと同じく、10~200万円程度での貸付を行っています。フリーローン、カードローン、無担保ローンなど様々な名称で商品化されています。ただし、これらのローンは無担保ではなく、アコム、オリコなどの消費者金融、信販会社が「保証会社」としてセットで契約されていることが殆どです。
フリーローンの延滞が続くと、アコムなどの「保証会社」がローン債務を一括清算し、銀行等から消費者金融等などに権利が移転します。これを代位弁済(だいいべんさい)といいます。
カード代位弁済後の対応は、「〇消費者金融、信販会社の支払遅れ」と同じように、一括請求された後、数か月後には裁判に移行します。
信用保証協会付き債務
銀行等から借り入れる事業用融資の多くは、○○信用保証協会(○○の部分には「東京」「大阪」など各都道府県名が入る。一般に「保証協会」と言われます。)の保証付き融資になります。いずれの金融機関でも、3か月以上の滞納が続くと、保証協会による代位弁済の対象になります。代位弁済された後は、保証協会が延滞した債務者に一括で返済を求めます。保証協会に債権が移るまでの期間、移った後の裁判手続きも、消費者金融や信販会社に比べると、やや遅い印象があります。
保証協会に対して、分割返済の交渉をすることも無理ではありませんが、5年、10年といった長期分割計画は受け入れられないことが多いでしょう。また、事業用融資は元金が1000万円以上の高額であることが多く、しかも10%以上の遅延損害金がかかるため、毎月数万円の分割だと元金が減りません。
不動産担保ローン
不動産担保ローンは、高額あるいは低利率の事業融資を得るために自社ビル、工場や自宅を担保に入れる場合と、投資用物件の購入資金のために購入物件に設定する場合があります。
いずれの場合も、1,2カ月の延滞では大きな動きはありませんが、3カ月以上延滞する場合には、残金の一括請求を受けることが多いです。
一括請求を受けてしまうと、延滞分全額を支払っても、元の分割弁済には戻してもらえません。その場合、抵当権等を設定した不動産の担保が実行され、不動産の権利を失ってしまうことになります(任意売却、競売の流れについては、別の記事でご紹介します。)。
預金口座に気を付けよう
銀行、信金などの融資の返済が滞っている場合は、その借入先の口座凍結に注意しましょう。
延滞が一定期間を超えたとき、あるいは弁護士から債務整理の通知を発送したときには、借入先の預金口座がすべて凍結されてしまうことがあります。そのとき、現存する普通預金、定期預金の残高はすべて残債務と相殺されてなくなります。
口座凍結は、数日で終わる場合もあれば、債務整理中ずっと凍結される銀行もあります。融資を受けた銀行口座を日常的に使っている方は、入出金の口座を変えたほうが良いかもしれません。
〇住宅ローンの支払遅れ
支払が遅れるとどうなる?
住宅ローンの支払いが滞った場合、3カ月分くらいまでの滞納は待ってくれるところが多い印象です。
しかし、いつまでも延滞が続くと、残ローンの一括請求をされます。
延滞の3~6か月後には、住宅ローンの債権が代位弁済されて、保証会社に移ってしまいます。
住宅ローンの請求が銀行から保証会社に移ってしまうと、基本的には残金を一括で支払うように求められます。ローン残金数千万円を一括で返せる方は(普通は)いませんから、そのあとは、抵当権を実行することを前提に、任意売却や競売へと進むことになります。
(任意売却や競売の具体的な流れや所要期間については別の機会にご説明いたします)。
巻き戻しという例外手続き
ところで、個人再生手続では、保証会社に移った後でも、一定の要件を満たせば住宅ローンを保証会社から銀行に戻す(巻き戻し)ことができます。
巻き戻しを使うには、「代位弁済の日から6か月以内に再生を申立てること」「再生後に住宅ローンを含めて再生で債務返済できること」といった各種の要件を満たす必要があります。
6か月の猶予があっても、再生の準備や支払方法の検討をするには期間が全く足りません。延滞が続いて一括請求を受けたけれども、自宅をどうしても残したいとお考えの場合、銀行等から一括請求(あるいは代位弁済)されたら、一刻も早く、再生を取り扱う弁護士に相談をしましょう。
〇税金の支払遅れ
支払が遅れるとどうなる?
税金(所得税、消費税、市県民税、固定資産税など)の支払は、数日程度遅れても督促はありません。
しかし、長期にわたり滞納すると、延滞金や加算金が課されます。
それだけではなく、滞納を放っておくと、裁判手続きなしに預貯金、給与、自動車、保険等の財産に差押えが行われます(これを滞納処分といいます)。
破産・再生手続でも減らせない
税金は再生、破産をしても減額・免除されません。しかも、特に再生手続きを希望する場合、滞納した税金を支払わないまま申立をすると、裁判所から「手続き中に差し押さえられる危険があるので再生を進められません」と指摘されてしまいます。
個人再生を希望する方は、遅くとも申立までに滞納税の分割返済を行政と合意しておき、延滞状態を解消しておく必要があります。
国保 年金にも注意
名目は「税」ではないものの、国民健康保険料や国民年金保険料も税金と同じように扱われていますので、滞納が続いた場合には差押えが入るし、再生、破産によって滞納額が減りません。もし、個人再生を使って事業や自宅を残したい、とお考えの方は、税金と保険料の滞納については、早期に、滞納の解消や行政との話合いをしておく必要があるでしょう。
〇まとめ
消費者金融やカード会社(信販会社)は、延滞数か月で裁判を起こされる危険があるので、早期に対応する必要があります。
銀行、信用金庫、信用組合等の金融機関は、支払いの催促は上記の業者ほどきびしくないし、裁判を起こされるまでの期間も比較的遅いです。しかし、権利が保証会社等に移ってしまえば元のとおり月々の支払いをすることはできませんし、住宅など担保がついている場合にはこれらを失う危険が大きくなります。
税金や国保料を滞納しても、頻繁に催促されないのは、行政には滞納処分(差押え)という強力な手段があるからです。いきなり預金や保険、売掛金を差押されると、返済計画、事業計画に大きな混乱を来します。しかも、税金や国保料は破産や個人再生を申立てても消えないし、不動産につけられた差押登記は、税金を支払い切らないと抹消してもらえません。
このコラムでは、債権者や債権の種類に応じて、支払いを怠った場合に想定される対応を説明しました。債務の返済が難しくなりつつある方は、上記の説明を参考に、適切な時期に、各債権者と連絡をしましょう。
もし、自力での返済が難しいと判断したら、実際に払えなくなるよりも前に弁護士に相談をしましょう。
監修者情報
弁護士
吉田浩司(よしだこうじ)
専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)
2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。