債務について

個人再生が必要な人、個人再生に至る前にできること――原因別債務事情

前回は、個人事業者の事業に関して、返済不能になる原因とその実例につき、業種別にご紹介しました。

今回は、業種や働き方にかかわらず、仕事以外の事情で債務が増えてしまう原因やその傾向、それらの対策について詳しくお話しします。

原因別に状況が悪化しないための予防策や、個人再生、自己破産などの債務整理でどの程度解決が可能かについても触れています。

すでに返済が厳しい方はもちろん、そうでない方も、気になる項目をお読みいただければきっと役に立つはずです。

 

もくじ

1 ギャンブル、投機的取引(株、FX、仮想通貨)
2 住宅ローンでの失敗
3 不動産投資の失敗
4 投資詐欺
5 教育費
6 養育費
7 生活費不足
8 債務保証
9 まとめ

 

 

1 ギャンブル、投機的取引(株、FX、仮想通貨)

背景と問題点

当事務所に相談に来られる多くの方々が抱える債務原因の約半数は、ギャンブルです。

ここでいうギャンブルには、競馬、競輪、競艇やパチンコなどのほか、株式、FX、仮想通貨の投機的取引も含みます。
初めての大勝ちによる興奮や、日常のストレスから解放されたいという思い、「おこづかいを増やしたい」といった経済的動機から続けてしまう方が多くいます。

損失が増えると、それを取り戻そうと無理な取引を重ね、結果的に負債をさらに増やしてしまうケースをよく見受けます。

最近の傾向

これまで大きな損失を出す原因として多かったのは、海外FXや仮想通貨などのハイリスク投資でした。

しかし、ここ3~5年ほど、違法なオンラインカジノによって短期間で多額の負債を抱えるケースが増加しています。
また、競馬、競艇などの公営ギャンブルをインターネットで繰り返し利用し、数百万円単位、場合によっては千万円単位の損失を出すケースも増えています。
コロナ禍での外出規制がきっかけで、ギャンブル依存に陥る方が増えているようです。

負債が増えるにつれて、投資対象や掛け金が大きくなり、最終的には宝くじで一発逆転を狙うというのも一般的な傾向です。

家族には内緒の人が多い

多くの相談者は、債務とその原因を家族に隠しています。最近のギャンブルはスマートフォンで簡単にできるため、依存の実態や、多額の損失のことを家族に知られていないケースが多いようです。

しかし、再生手続きに進む際には、継続的に返済資金を確保する必要があり、家族の理解と協力が不可欠です。できる限り、家族に打ち明けることが重要です。

事前の対策と再発防止策

ギャンブル依存に陥らないためには、以下のような対策が必要です:

  • 早期の自覚: ギャンブルのために借金したり、給料をすぐ使い果たして生活費をクレジットカードでまかなっている場合、それが非常事態であることを早く認識することが必要です。
  • ハードルの設置: 使い過ぎを防ぐには、ギャンブルにハードルを設けることが効果的です。例えば、スマートフォンにはギャンブル関連のアプリをインストールせず、自宅パソコンでの取引に限定する、あるいは場外馬券場での現金購入に限定するなどの方法があります。
  • 再発防止策: 負債を解消するだけではなく、専門的な治療(カウンセリングやグループセッション)を受けることが再発防止のために有効です。また、家族とのコミュニケーションも大切です。

事後処理

ギャンブルや投機的取引が原因の場合、一切破産が認められないと誤解されている方もおられます。しかし、金額や利用期間など、内容によっては、ギャンブルによる債務でも免責される可能性はありますので、返済が難しくなった方は、自己破産、個人再生いずれか決めていない状況でも弁護士にご相談ください。

とはいえ、ギャンブルや投機的取引が原因で1000万円近く、あるいはそれ以上の債務がある場合、自己破産はできるだけ避けて、個人再生により200万円程度の返済ができないかを検討していただくことが多いでしょう。

この債務原因に多いタイプ

ギャンブルが債務原因の方は、大人しく、温厚な性格の方(特に男性)が多い印象です。

また、家族からはギャンブル依存からの脱却が期待されていますが、当人にとってギャンブルは唯一のストレス解消手段となっていることがあります。その場合、無理にギャンブルをやめようとすると、ストレスが溜まり、仕事や生活に悪影響が及ぶこともあります。

再生の準備段階で、新たな趣味や生きがいを見つけることが望ましいといえます。

 

2 住宅ローンでの失敗

背景と問題点

マイホームが欲しいという強い思いから、無理な住宅ローンを組んでしまい、生活費が不足することもあります。以前から一定数みられるケースでしたが、最近の不動産価格高騰を受けて、住宅ローンによる生活困窮が増えています。

特に、夫婦連帯債務やペアローンを組んで失敗する事例が多く見受けられます。

返済困難になるいくつかの例

返済に苦しむ方々の多くは、ローンの月額が12万円以上に達しており、月額10万円以下であっても、ボーナス払いが設定されている場合には、賞与が減額された際に支払いが困難になることがあります(※世帯年収おおむね800万円程度まで、家族4人程度までを想定しています。)。

住宅ローンの限度額は購入者の年収や年齢によって決まりますが、頭金が少ない場合、希望する住宅の購入資金が不足することが多いです。

特に、夫婦で返済するペアローンや連帯債務型では、出産や育児、一方のメンタル不調による収入減少が原因で、急に返済が厳しくなるケースが見られます。

また、離婚や別居をきっかけに住宅ローンの滞納が発生する例もよくあります。

特に注意が必要なのは「住み替えローン」です。たとえば、前の自宅を売却しても500万円のローンが残り、新居の購入価格3500万円と合わせて4000万円のローンを組むケースがあります。

このような場合、高額な借入額が家計を圧迫しやすく、さらに旧宅の残ローン額によっては、個人再生の住宅ローン特約が利用できないこともあります。詳細は、個人再生の取扱いがある弁護士に相談することをお勧めします。

事前の対策

ここ数年、返済不能リスクの高い住宅ローンを組む家庭が増加しています。90年代にはほとんど利用されていなかった変動金利型のローンが、現在では70%以上の家庭で利用されています。また、大都市圏ではペアローンを組む家庭が3割近いという調査結果もあります(2024年現在)。これから住宅ローンを組む家庭は、本当に返済が可能か慎重に検討するべきです。

また、一般に「住居費は年収の3割まで」と言われますが、この3割は額面ではなく手取り収入の3割を基準にする必要があります。さらに、共益費や固定資産税、火災保険料や定期的な設備の入れ替えなども考慮すると、手取りの3割でも家計を圧迫することがあります。

事後処理

住宅ローンの負担が大きく、家計が圧迫されている場合、家を売却して個人再生や自己破産を行うことで、家計の改善が期待できます。

しかし、自宅を手放さずに債務整理を希望する場合、特にローン月額が高い家庭では、住宅ローン特約付き個人再生の成功が難しいことがあります。

このような場合、自分や家族が副業をして収入を増やし、無駄な支出を徹底的に削減して可処分所得を増やす必要があります。これができないと、個人再生の成功は見込めません。

この債務原因に多いタイプ

住宅ローン返済に苦しむ夫婦には、話し合いが不足しているケースが多く見られます。たとえば、どうしてもマイホームが欲しいという夫(または妻)の強い意向で無理なローンを組み、返済が厳しくなっても家族に相談できず、内緒で借金をしたり、ローンを滞納するケースがよくあります。

また、高収入の共働き夫婦が都心部に高額のマンションを購入したものの、片方がうつ病になったり、業績不振で収入が減少したりしてローンを返済できなくなるケースもあります。離婚を前提とした別居を機に、夫(または妻)が住宅ローンの支払いを止めてしまう例も少なくありません。

 

3 不動産投資の失敗

背景と問題点

不動産投資として、ワンルームマンションや民泊用の物件を業者に勧められ、ローンを組んで購入したものの、空室が続いたり、成約する賃料が想定よりも低く返済が困難になるケースがあります。これが最終的に返済不能に陥る要因となって相談に来られる方がおられます。

返済が難しくなる典型的な例

中高年で収入や資産がそれなりにある人が営業を受けて複数のマンションを購入し、結果として3000万から9000万円もの大きな負債を抱えてしまうケースが目立ちます。最近では20~30代の若年層にも、収入証明の偽造などを含む巧妙な手口で不動産購入を勧められる例が見られます。

これらのケースでは、無理に複数の物件を買わされていたり、購入条件が非常に悪いことがあります。「節税になる」との誘い文句もよく使われますが、結果的に損失を被ることも少なくありません。

事前の対策

不動産投資を勧誘された場合、まずは信頼できる人や専門家に相談する方が良いでしょう。営業マンが強く購入を勧めても、その場で契約せずに資料を持ち帰り、自分で詳しく調べるか、信頼できる第三者の不動産業者に確認してもらうべきです。

不動産投資は大きなリスクを伴うため、慎重な判断が求められます。

事後処理

個人再生や破産を行う際には、投資用物件を保有したまま手続きを進めるのは難しいため、売却が必要となります。その際、物件の実際の価値を知って愕然とすることもあります。例えば、残ローンが1800万円の1Kマンションを売ろうとした場合、1000万円以下の値しかつかないこともあります。

残った800万円の負債は、再生手続きによって圧縮するか、破産手続きで免責を求めることになります。

この債務原因に多いタイプ

投資用マンションを購入する方は、もともと本業の収入が高いことが多く、そのため、個人再生による経済的更生がしやすい場合が多いです。

ただし、返済に困って高利の貸金業者から借りたり、自宅の住宅ローンや税金の滞納が続いている場合、申立前に対処すべき事項が増え、申立てが困難になることもあります。そのため、早めに専門家に相談することが重要です。

 

 

4 投資詐欺

背景と問題点

投資詐欺では、「高利率の配当が定期的に受け取れる」との誘い文句で、知人や友人に送金するケースが多く見られます。最初は少額の配当が支払われるものの、その後、勧誘者と連絡が取れなくなることが典型的な手口です。このような詐欺に遭遇することで、深刻な負債を抱える事態に陥ることがあります。

傾向

投資詐欺においては、最初に数十万円程度を預け、その後に「利益が出ている」との報告を受けて、さらに数百万~1,000万円以上を投資させられます。最終的には、勧誘者が姿を消し、連絡が途絶えるというパターンが多く見られます。

詐欺の手口としては、「プライベートファンドへの特別投資」「有望な未公開株の購入」「海外での仮想通貨運用」などがあり、これらは正式な市場で募集されていないため、安全性や真偽を確認することが非常に困難です。

最近では、SNSを利用した詐欺も増加しています。

事前の対策

投資を検討する際には、少なくとも投資内容が記載された資料を入手するか、運用元のウェブサイトを確認することが重要です。資料やウェブサイトがない投資に応じることは、とてもリスクが高く危険な行動であると心得ましょう。

また、第三者に相談せず、独断で投資を進めることは避けるべきです。「友人が儲かっているから自分も大丈夫」という誤解に陥りがちですが、その後、友人を含めみんなで損をするか、最悪の場合には自分が加害者になる可能性があります。

どうしても投資をしたい場合は、手持ち資産の1割程度など、損失を許容できる範囲内で行うべきです。投資のためにあらたに借り入れすることは絶対にやめてください。

事後処理

多くの投資詐欺では、勧誘者の本名や住所を知らないことが一般的で、自分が送金した法人口座もすぐに消えてしまったり、実在しなかったりすることがあります。個人名義の口座であっても、追跡が困難な場合が多いです。

仮に勧誘者の住所や氏名がわかったとしても、その人自身も騙されており、上層部と連絡が取れなくなっていることも多くあります。

なお、投資詐欺の被害を受けて個人再生を考える場合、投資資金が回収不可能であることを裁判所に証明する必要があります。

このような場合、個人再生の申立前に、弁護士が相手の所在調査を行い、返還請求を試みます。しかし、多くの場合、相手からの応答や返金は期待できません。

この債務原因に多いタイプ

投資詐欺に遭いやすい人の特徴として、外向的で資料整理が苦手な男女が多いです。

このようなタイプの方々は特に注意が必要です。

また、「紹介料がもらえる」との触れ込みで勧誘を手伝い、その結果、自分も損失を被り、紹介先から強く非難されてしまうケースもよく見受けられます。

5 教育費

背景と問題点

子どもの進学費用や習い事、スポーツ支援などに多額の資金を投じるケースが多く見られます。入学金や学費、教材費が重なると、借入が増加し、最終的には債務整理が必要になることもあります。

傾向

子どもが大学を卒業してから、意を決して債務整理を相談される家庭が多い印象です。複数の子どもがいる家庭では、2人目、3人目が高校・大学に通う時期に問題が表面化することもあります。

また、借入先が、銀行等、貸金業者だけでなく、親きょうだいからの借入れも多いのもこの債務原因の特徴です。

夫婦間での連携が取れていない場合、夫が気づいたときには妻が1000万円前後の負債を抱えていることもあります(夫の名義で借りていることもあります)。

このような状況では、返済ができなくなった時点で問題が発覚するケースがよくあります。

事前の対策

教育方針や教育費の限度について、夫婦間でよく話し合い、共通の認識を持つことが重要です。しかし、これが実際にできる夫婦は少ないかもしれません。家族の問題の中でも、子どもの教育方針に関して意見調整を行うことは特に難しいことです。それでも、「これ以上は危険」という具体的な支払い月額や見込み費用を設定し、共有しておくことが大切です。

また、教育資金を早めに準備しておくことも重要です。学資保険は運用利率が低く、投資としての意義には乏しいものの、教育資金を家計から分けて確保する手段としては意味があります。

借入が必要になった場合は、手軽なカードローンなどではなく、日本政策金融公庫の教育資金融資など、低利率のものを選ぶことが望ましいです。

さらに、子どもが習い事や塾に真剣に取り組んでいるかどうかを確認することも重要です。入会特典が目的だったり、学習以外の目的で通っていることもあるため、子どもにとってそれが必要なのかは、きちんと内容を理解して見極められるとよいです。ただし、過ぎた干渉は子どもにストレスを与える可能性があるため、バランスが重要です。

親兄弟の援助、保証について

親から教育資金を贈与していただけるのであれば受けても良いです。しかし、借入することはできれば避けましょう。親兄弟からの借金は、のちに法的整理をせざるを得なくなった場合、親族関係が難しくなる可能性があります。

また、奨学金の保証方式は、多少の保証料がかかっても「機関保証」にしておくことが重要です。

理由は、ご自身が再生・破産する際、過去に奨学金の(連帯)保証人になっていると、お子さんに対し保証人交代の連絡が入って迷惑がかかるからです。

また、お子さんが将来、奨学金を全額返せる確証はありません。倒産や病気、失職などの不運によって、不本意にもお子さんが奨学金の返済が出来なくなることもあります。そのとき、親族が保証人をしていると、お子さんが債務整理をためらってしまい、経済状況がさらに悪化することもあるのです。

事後処理

任意整理と異なり、自己破産、個人再生を行う場合には、すべての借入れや保証債務を申告する必要があります。破産再生が必要な状態であるにもかかわらず、親や親せきから借りたお金を整理の対象にできず、長期間にわたり自己破産、個人再生を思いとどまる方が一定数おられます。

このような事態に陥らないよう、親族からの借入れはできれば避けて、借りざるを得ないときにも少額にとどめるようにしましょう。

親族からの借入は、正式に「債権者」として他の業者と共に返済対象にする場合と、厳しい家庭事情を理解していただき、返済を免除してもらう場合があります。ただし、債権者として扱うためには、借用証や送金記録など、貸付の事実を証明する客観的な証拠が必要です。

また、前述のとおり、奨学金債務を抱えた方が、「保証してもらった親には絶対知られたくない」「迷惑を掛けたくない」との理由で自己破産や個人再生を断念する例が複数見られます。奨学金を借りる際には、支払額は多少増えても、「機関保証」方式で借りることを積極的に考えるようにしてください。

この債務原因に多いタイプ

教育費の問題に悩むのは、平均以上の収入がある中高年の夫婦が多いです。夫婦仲があまり良くないことが多く、一方又は双方の親族から経済的援助を受けているケースが多く見られます。親族から高額な借金をしているケースも少なくありません。

 

6 養育費

背景と問題点

離婚後、元配偶者に対して高額な慰謝料や養育費を支払うことで、借金が増加し、最終的に返済が困難になるケースがあります。

傾向

養育費の相場を知らず、相手の要求通りに支払を約束してしまった場合には破たんしやすいです。たとえ相場通りの養育費であっても、高額な慰謝料や、親への仕送りもあわせて行っている場合、生活が困窮する可能性があります。

また、債務整理に入る時期でいえば、教育費の例と同じく、子らへの支払は借入してでも何とか支払い、養育費を支払い終えてから(成人してから)、債務整理を決断する例をよく見受けます。

事前の対策

離婚時には、親権、財産分与、慰謝料、養育費の額を決定する必要があります。離婚原因が自分にある場合、意見を出しづらいこともありますが、合意する前に弁護士に相談することが重要です。

また、養育費は互いの収入に応じて相場が決まっています。弁護士に相談できない場合でも、まずは養育費算定表を確認し、相場に基づいた支払額で合意するようにしましょう。

もし、相場をはるかに超える月額を合意したり、収入が減少して支払いが厳しくなった場合は、家庭裁判所で養育費を下げる調停を起こすことも可能です。

いずれにしても、早い段階で弁護士に相談することが賢明です。

事後処理

破産再生を利用する場合、養育費の支払い義務は減免対象になりません。そのため、支払額が高い場合には、減額交渉が必要です。

また、個人再生手続きの準備中や申立後に、あまりにも高額な養育費支払いを行うと、偏頗弁済を指摘されて支払額が増えることもあります。

なお、自己破産や個人再生を依頼する直前に離婚をして財産を元配偶者に渡してしまう例をみかけます。しかし、その時期や金額によっては、破産申立後や再生申立後に裁判所から指摘され、財産を取り戻す必要が生じる場合があるため、お勧めしていません。

この債務原因に多いタイプ

婚姻中に別の異性と親密になって離婚し、その後再婚し新たな家族を持った場合、特に負債が大きくなりやすく、支払い途中で破たんしやすいです。2つの家族に対する生活費が必要になるものの、新旧どちらの家族にも「生活が苦しいので養育費(生活費)を下げてほしい」と言いにくいことが原因と考えられます。

 

7 生活費不足

背景と問題点

生活に必要な収入が得られず、借金の返済が困難になって個人再生を希望するケースは一定数あります。

しかし、「生活費不足」を理由に相談される方でも、詳しく事情を聞くと上述のような事情(ギャンブル、住宅ローン、教育費、養育費)等が原因であることが殆どです。あるいは、今はそれなりの月収を稼いでいるものの、過去の事業負債の返済を抱えており、それが負担になって生活費が足りなくなっている例も多い印象です。

まれに、債務が増える主な原因がないのに返済が苦しくなるという例はあります。ただし、相談全体の5%以下であり、かなり珍しいです。

傾向

収入が300万円以下の場合、高額の借入れ審査に通ること自体が難しく、個人再生が必要なほどの債務総額に増えることは少ないです。一方、それなりの収入があった方が、業務上の配転や転職により収入が減少し、生活水準を下げられずに借金が増加するというケースを見かけることはあります。

月額返済が厳しくなるとリボ払いを選択して返済額を減らすと、一見楽に思えますが、負債が減らず、最終的に返済不能に陥ってしまいます。

傾向として、無担保のカードローン(年率15~20%)の負債総額が年収を超えると、返済が難しくなることが多いようです、たとえば、年収500万円の方が500万円以上の借入れをしている場合、家族構成や住居費割合によりますが、かなりの割合で約定弁済が困難になります。

事前の対策

「なぜ返せなくなったのかわからない」と言う方の多くは、月々の収支を記録していない場合が多いです。まずは日々の支出を記録し、使いすぎや無駄な支出(サブスクなど)を見直すことが重要です。また、生活費不足の方はリボ払いを避けるべきです。負債の一本化は一時的な解決にはなるかもしれませんが、根本的な問題解決にはなりません。

事後処理

例えば、数十年間かけて少しずつ増えた負債を個人再生で圧縮すると、大きな減額効果があり、経済的に立ち直れる可能性が高いです。しかし、2~5年などの短期間で負債が膨らんだ場合、金銭感覚、生活習慣に問題があることが多く、再生で債務を圧縮しても再び返済不能になる可能性があります。そのため、お金の使い道をしっかりと確認し、生活を根本から変える必要があります。

この債務原因に多いタイプ

気付いたら借金が増えていた、という方の多くは、自身の収支状況を把握していません。まずは日々の支出を記録し、今の生活で債務が減らせるか、節約すればどれくらいで借金を返せるかを考えてみましょう。

また、過労で精神を病んで減収し、休業や転職を機に債務整理を行う方もいます。このような場合、自己破産であれば申立可能ですが、個人再生の場合、まずはご自身の収入が安定してから申立てを行う必要があります。

さらに、こづかい制の夫が出張や業務で必要なお金が足りなくなり、妻に言えずに負債を抱えてしまう例も多く見かけます。いずれも、返済のため一定の積立が可能であれば、個人再生は可能なことが多いです。

当事務所の実例でいえば、負債300~800万円くらいまでの方は、毎月5万円前後のお金を残すことができれば、十分に再生による解決が期待できます。

8 債務保証

背景と問題点

親やきょうだい、ビジネスパートナーのために連帯保証人になった結果、借りた本人が破産したり廃業したりして返済できなくなり、連帯保証人として残債を一括請求されて返せなくなるケースがあります。連帯保証人は、主たる債務者が返済不能になった場合はもちろん、それ以前の段階でも、債務の残額について一括請求を受ける可能性があります(主債務者に対して2次的な立場にとどまる、単なる「保証人」制度もありますが、実務上はほぼ使われていません。)。

また、保証契約ではないものの、親族のために自分の名義で借金をして、そのお金を貸したり援助したりした結果、返済不能になったケースも、類似の原因といえます。

傾向

最近では、近親者に高額の負債を保証させる契約はほとんどなくなっているため、純粋な意味での連帯保証による返済不能の例は減っています。

しかし、急死した父親の事業負債を肩代わり(相続)して返済不能になったケースや、進学のために借りたはずの奨学金を、親に求められて家族の生活費に充てたケースなど、気の毒な例に接することがあります。

事前の対策

個人間の貸し借りの際に(連帯)保証を求められた場合、よほどの理由がない限り断るべきです。

親の事業を負債と共に引き継ぐ場合、遠くない将来に廃業の可能性がある場合は、可能な限り「債務を引き継がずに事業だけを続けられるか」を検討するべきです。そして、廃業すべき時が来る1年以上前から、個人事業や会社の決算書類を基に、事業廃止や破産に詳しい弁護士に相談しておくのが望ましいです。

事後処理

安定した収入がある場合や事業で十分な利益が出る場合、個人再生を利用すれば、3000万円以上の債務を10分の1まで減額できる可能性があります。しかし、負債総額が5000万円を超えると、個人再生手続きが利用できなくなります。高額の保証債務を引き受け、その請求を受ける危険がある方は、滞納が続いて遅延損害金が膨らむ前に、早いうちから弁護士に相談する必要があります。

この債務原因に多いタイプ

債務保証だけが原因で個人再生を希望されるケースは非常にまれです。過去10年で債務保証だけが原因のケースは3~5件程度の取り扱いしかありません。

相談者は非常に責任感が強い方が多く、相談に来るのが遅い傾向があります。支払いを続けるために苦労し、どうにもならなくなってから相談に来ると、取れる手段が限られてしまいます。決心がつかなくても、早めに相談することをお勧めします。

 

9 まとめ

個人再生によくある債務原因を、当事務所での依頼や相談が多い順に説明しました。それぞれの原因や経緯は異なりますが、いくつかの予防策や、返済不能に陥った後の対応策があることをご理解いただけたかと思います。

多くの方々が、負債を抱えて日々暮らしている中で、「まだ何とかなる」あるいは、「相談してもどうにもならない」と対応を先延ばしにして、余計に問題が深刻になった状況をよく見かけます。

当事務所でも、一度無料相談を受けた後、問題点や対処法が分かったものの、家族に説明できないことに悩み続け、半年後や1年後にようやく依頼に来られる方も少なくありません。

ご相談者には、弁護士に相談することに躊躇する理由があるかもしれませんが、一人で苦しむよりも早期に相談し、現状を把握しておくことで、どのように行動すればよいのか方針が立てやすくなります。状況が悪化する前に専門家の助言を受けることで、適切な対処法を見つけやすくなり、負債の問題を解決するための一歩を踏み出すことができます。ぜひとも、早い段階でご相談されることをお勧めします。

 

関連記事

再生相談の同席者

監修者情報

弁護士

吉田浩司(よしだこうじ)

専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)

2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。