債務について

事業が債務原因の個人再生――個人事業主の場合

個人再生で経済的復帰を希望する方の大半が、ご自身の業務とは関係のない原因で返済不能に陥っています。

一番多い例がギャンブルです。そのほか、住宅ローンの滞納(投資用物件を含む)、教育費(子供や自身の教育)、離婚後の養育費負担、傷病による失業や生活費の不足などが原因として挙げられます(詳細は別の記事で解説しています)。

一方、個人事業主の場合、事業収入が不安定になったり、収支のバランスがうまく取れずに返済不能に陥り、廃業を避けるために個人再生を選択することがあります。

以下では、個人事業主がどのような事情により返済ができなくなるのか、それぞれ業種別の特徴とともに、個人再生による事業継続の可能性について解説いたします。

 

もくじ
1 建設業(一人親方)
2 飲食業 
3 美容師・理容師 
4 デザイン・プログラム関連職 
5 保険外交員 
6 不動産業(宅地建物取引業者)
7 整骨院(柔道整復師)、エステ、マッサージ業
8 ハウスクリーニング業 
9 (全事業者共通)所得と税・保険料負担の関係 
10 まとめ 

 

 

 

1 建設業(一人親方)

建設業(一人親方)の特徴

大工、内装工、電気工、塗装工、溶接工、とび職、土木、解体業、左官業、築炉など、建築作業に直接関わる職業の人々は、それぞれ専門的な知識と経験を持って仕事をしています。

特定の会社に正社員として雇用され給与制で働く人はいるものの、業務委託(請負または委任)の形で税金や社会保険を自分で負担する働き方が多い業界です(これを業界用語で「一人親方」といいます)。

建設業(一人親方)の債務原因

業界自体は好景気

現在、建築の需要に対して人手が不足しているため、一定程度の経験があり、週4~6日働けるのであれば、月額30~50万円以上の収入は十分に見込める業界です。

仕事がなく稼げないというのは現在のところ建設業ではあまり見かけません。

赤字リスクのある請け

建設業者に特有の債務原因としてよくみられるのは、材料手配や業務外注を含めた建築仕事の受注(「請け」の仕事)の失敗によるものです。

例えば、大幅な手直しや変更を要求され、材料費や外注費が受注額を上回る場合には、赤字受注となり不足する費用分が債務として増えることがあります。また、外注業者(下請け)がミスをしてその補填をする場合、受注先が倒産・廃業して代金を回収できなくなる場合なども数百、数千万円の負債を抱えてしまいます。

いつも同じ取引先との間で、1日2万~3万円など日当をもらう仕事をしているうちはリスクが小さいのですが、大きく儲けることもできません。仕事に慣れてきて、仕事の人間関係が拡がってくると、請け仕事で儲けたいと考えるのはよく理解できます。しかし、そこには赤字受注や売掛未回収のリスクがあります。

債務整理の相談を受けていると、請け仕事で失敗した方の例を多数見ています。建設業者のみなさんは特に慎重になったほうが良いと思います。

個人再生による継続可能性:易~中

請け仕事は再生が難しい

請け仕事を行っている個人建設業の場合、過去および現在の買掛金や人件費を清算しないまま個人再生を進めると、協力業者から手続きに反対される危険があります。

また、今後の仕事の協力が得られなくなる可能性もあります。逆に、再生手続き中に買掛金を支払おうとすると「偏頗弁済」の恐れが生じます。

請け仕事を続けながらの個人再生は、負債の種類や今後の仕事の見通しを慎重に見定める必要があります。

一人親方は再生しやすい

請け仕事をしない一人親方の場合、多額の買掛金はありません。

高額の建設機械やダンプトラックを所有している場合には、清算価値によって支払額が想定より増えることもありますが、めったにありません。

一人親方の場合には、個人再生を進めるのは比較的容易といえます。ただし、一人親方でも、ギャンブル依存症、多額の税金や国保料を滞納している、扶養家族の負担や住宅ローンが高いなどの債務原因がある場合には再生は難しくなることもあります。

 

 

2 飲食業

飲食業者の特徴

居酒屋、焼き鳥屋、寿司屋など夜間営業を主とする店舗のほか、弁当販売、うどん店、パン屋など日常食を提供する店舗も含まれます。

これらの業種では、業績の低迷により債務が増大する例が見られます。

飲食業の債務原因

コロナで打撃を受けたものの補てんあり

コロナ禍により営業自粛が続き、飲食業の売上が激減したことは記憶に新しいところです。しかし、飲食業の売上減少に対しては、損失補填のために各種補助金や緊急貸付制度が創設されました。

これによって、多くの飲食業者は支払不能に陥ることは避けられており、現在は業績が回復しつつあります。

返済不能となった飲食店の特徴

コロナ禍を経て経営不振に陥った飲食業者の特徴としては、①多店舗展開あるいは拡張移転後の人手、売上不足、②支援金を得て他業種(デリバリー、ネットショップ等)へ進出して失敗、③仮想通貨などのハイリスク投資に手を出して失敗などがあります。

また、手元にお金があるために車を購入したり、他人に融資したりして返済に苦しむパターンも多く見られます。

個人再生による継続可能性:中~難

競争が特に激しい業界

飲食店の場合、売上悪化に対する対抗策として食材、人件費のコストカットを行うと品質の低下や事業主の過労につながり、思うような結果につながらないこともあります。

特に、低価格帯の業態だと原料高でも顧客離れを考えると値上げしづらいのが実情です。

また、一定の集客が見込める地域であれば、同業、他業種を含めて新規参入があり、常に競争にさらされています。一時は調子のよかった個人店舗が、近隣に同業の大手チェーン店が参入して一気に売上を奪われる例も多く見られます。

買掛金の処理が難しい

飲食業は食材の仕入れがあるため、買掛金が生じやすい業態です。買掛(ツケ)を払わないでいると取引を止められてしまうので、業者には支払いを続ける必要があります。

しかし、ツケを支払おうとすると裁判所には偏頗弁済とされ、支払いが出来なくなる問題があります。再生手続き中に支払いを続けるには、仕入れごとに現金払いにするなどの工夫が必要です。

撤退ルートが構築されている業界

競争が激しく店の入れ替わりが頻繁にあることで、物件の引き継ぎ先が見つかりやすいという側面もあります。

事業承継サービスに相談すると、内装をそのまま引き継ぐ「居ぬき」の形で物件を引き継いでもらい、法的整理なしに廃業を果たす例も多いようです。

このようにして廃業を果たした後、就職先を見つけてから、飲食業で残した数百~千数百万円の負債を圧縮するために自己破産、個人再生を希望する相談例も多くあります。

本業以外の債務原因での飲食業個人再生

以上述べた通り、飲食業は比較的競争の激しい業界ですので、本業が振るわない場合、個人再生で債務を減らしても、再建の目途が立ちづらい事案が圧倒的に多い印象です。

逆に、本業は堅調であるものの、それ以外の原因(浪費、子の教育、多角経営の失敗、親の債務保証など)で負債が増えた場合には、個人再生で飲食業の存続が可能な場合もあります。

 

 

3 美容師・理容師

美容師・理容師の特徴

個人事業主としての美容師・理容師(以下、総称して「理美容師」といいます。)には、2つのパターンがあります。

一つ目は、店舗を構え、複数の従業員を雇用する個人経営者としての理美容師、

もう一つは、特定の店舗にフリーランスとして登録し、予約ごとに店舗に経費を入れて施術し、生計を立てる理美容師です。

美容師の債務原因

個人経営者の美容師は、コロナ禍によって客数や売上が激減し、経費負担が大きくなったため、廃業や店舗縮小を余儀なくされる例がありました。

また、店舗を増やしたものの、人手が足りずに売上を逃し、その間に売上が伸びず、店舗家賃や人件費の負担に苦しむ悪循環に陥るケースも見られました。

フリーランスの美容師の場合、固定費の負担はそれほど大きくありませんが、コロナ禍で売上が伸びず休業し、その間に借り入れた生活資金が負債となり、売上が回復しても返済負担が重く、生活が困難になった相談例もありました。

個人再生による継続可能性:易~中

理美容師は、いわゆる「人に仕事が付く」業態です。一定の顧客がついて安定した需要があれば、どこでも、どの店舗でもある程度の収益を上げることができます。

飲食業や小売業のように一定の設備や仕入れが必要な業種と違い、業務に最低限必要なものはハサミとドライヤーくらいです。

フリーランスの理美容師であれば、店舗と設備はどこかの美容室に登録し所属する方法で調達できます。そのほか、最近では予約ごとに接客、施術する時間を指定して使わせてもらうレンタルサロンもあるため、店舗に所属することはもはや必須ではありません。

 

一方で、店舗を構える個人経営の理美容師は、来客数や接客人員が不足している場合、直ぐに売上・経費を大きく改善することは難しいことが多いです。この場合、移転を前提にしないと収益改善が難しいかもしれません。

なお、当事務所のこれまでの再生・破産事案において、店舗型の理美容師さんは、いずれも店舗を縮小移転しました。

 

 

4 デザイン・プログラム関連職

デザイン・プログラム関連職の特徴

ウェブサイト制作、広告デザイン、システムエンジニアなど

出版・印刷業界は、出版物の減少と広告のデジタル化により、廃業、統合が相次いでいます。特に印刷を主とする旧来型の業者は事業の存続が難しくなっています。

これまで、当事務所でご相談を受けた印刷を主とするデザイン業者は、個人再生に成功した例がなく、いずれも自己破産により債務を整理しました。

 

一方、ウェブサイトやコンテンツの作成、写真撮影、広告の企画を行う方々、特定の会社に業務委託の形式で働いているシステムエンジニア(SE)の場合は、今後も一定以上の収入を得られる見込が確認できれば、個人再生の可能性が高いです。

当事務所でも、個人事業主のウェブサイト制作者、広告代理業、SEの個人再生成功例は多数あります。

デザイン・プログラム関連職の債務原因

出版・印刷を主とするデザイン業は構造不況であり、市場が縮小していること、設備の維持や入れ替えに相応の費用が掛かることが債務原因になります。

 

フリーランスのウェブサイト制作者や広告代理業、システムエンジニアの場合、病気や出産、転居、コロナ禍を機に収入が途絶え、負債を抱える例が多く見られます。収入があるうちは借金をしていても返済できるものの、一度仕事が止まると収入の保証がなく、一気に負債額が膨らむことがあります。

さらに、前年の収入を基準に税金や国民健康保険料が請求されるため、収入が下がると高額の税負担と債務返済に苦しむ例も多く見受けられます。

個人再生による継続可能性:易

ウェブサイトやコンテンツ、広告に関わるフリーランスは、店舗や設備、人件費などの固定経費がほとんどないため、負債さえ整理できれば事業を継続できる場合が多いです。

また、SEの場合、スキルアップすれば受注できる仕事の範囲が広がりますので、個人再生後に大きく収入を伸ばした方も多くいます。

 

 

5 保険外交員

保険外交員の特徴

保険外交員は、生命保険などの各種保険商品を販売する職業です。はじめは保険会社や保険代理店に所属し、給与所得者となりますが、経験を積むと歩合給で働くようになります。

完全歩合制(フルコミッション)で営業する場合、会社に所属して給与を受領したとしても、実質的には個人事業主といえます。そのため、給与所得と事業所得を併せて申告することもあります。

保険商品を販売するためには「生命保険募集人」などの資格が必要です。自己破産すると資格が停止され、仕事ができなくなるため、個人再生手続を選ぶことが多いです。

保険外交員の債務原因

保険外交員の借金の原因は、収入や経費によっていくつかのパターンがあります。

経費の使いすぎ

保険外交員として働き続ける中で、借金が増えることもあります。

初めのうちは固定給が保証されますが、1~2年経つと給与保証額が減り、契約を取るために新規開拓が必要になります。契約が取れない月でも会合に出席したり、交通費がかさむため、借金が増えることがあります。さらに、売上手数料を得るために自分や家族を保険に加入させて、保険料の支払いに苦しむケースもあります。

高収入外交員の借金の原因

日本では、保険外交員の中で年収1000万円を超える人は全体の5%前後といわれています。

当事務所では何度か高収入外交員の相談、依頼を受けたことがありますが、高収入外交員が借金を抱える原因は、友人や知人に貸したお金が返ってこないことや、投資詐欺に遭ってしまうことが多いようです。

転職組が過去の債務を清算する

保険外交員になると高収入が得られるチャンスがあると聞き、他職種から転職する人は多いです。

生活が苦しく転職する場合のほか、多額の負債を返済するために保険外交員に転職して収入を増やしたものの、過去の債務を返しきれず個人再生を希望して債務を圧縮したケースがいくつかあります。

個人再生による継続可能性:易~中

保険外交員は、備品や在庫は不要であり、買掛金の発生はほぼないので、個人再生しやすい職業です。

破産すると資格が停止されるため、仕事を続けたい場合は個人再生手続を選ぶことが多いです。

ただし、保険外交員の収入が低く、生活費や返済に必要な最低限の資金が貯まらない場合は、あえて保険外交員の職にこだわる必要はありません。この場合、個人再生ではなく自己破産を選ぶ方もいます。

 

6 不動産業(宅地建物取引業者)

不動産業者の特徴

不動産業者とは、土地を購入してマンションや戸建てを建てる開発業者や、複数の物件を貸して賃料を得る賃貸管理業者のことを指します。

また、不動産を売りたい人と買いたい人の間を仲介する業者や、開発業者の代わりに販売活動を行う販売代理業者も含まれます。

この中でも、個人再生を希望することが多いのは、不動産の売買仲介や販売代理を行う個人事業主です。

 

不動産売買、賃貸に関わる個人事業主は、どこかの会社に所属して歩合制で働くか、個人経営の不動産業者として宅建業登録をして活動します。

自ら開業する場合はもちろん、物件の契約説明を行うためには宅建士の資格が必要です。もし自己破産すると、この資格が停止されて業務が中断する危険があるため、保険外交員と同じく、職業上の理由から個人再生を希望する人が多いです。

不動産業者の債務原因

大きく上げ下げする収入

不動産の売買仲介や販売代理業は、契約が成立して初めて報酬を請求できます(完全成功報酬)。

そのため、契約に至るまでに何十、何百時間も査定や内見(内覧)、融資相談をしても、成約に至らなければ報酬はもらえません。また、見込み客訪問や物件調査、書類作成にかかる経費はすべて自己負担です(個人事業主の場合)。

一方で、数千万円から数億円の高額物件の契約があれば、年に2~3回の契約で1000万円を超える報酬を得ることも珍しくありません。

このように、収入と支出のバランスを取るのが難しい業態であるため、報酬が入ったときに散財してしまい、返済や経費のためにカード利用が増えて借金が膨らむ危険があります。

大きなストレスからくる散財

販売会社に所属してテレアポや訪問、紹介営業を行う販売代理業の場合、経費増大のリスクは少ないです。

しかし、営業ノルマや成績へのプレッシャーからストレスが高まり、得られた歩合給を高額の飲食費やギャンブルに使いすぎる人もいます。

転職組が過去の債務を清算する

不動産営業職は、未経験者でも採用されやすい業種です。そのため、飲食業や建設業を自営していたが負債を抱えて廃業し、再チャレンジとして不動産業に転職する例をよく見ます。その後、一定の収入を確保された方が、個人再生によって過去の債務を圧縮するというケースも多いです。

このような転職組が負債を抱えているケースは、保険外交員でもよく見ます。

個人再生による継続可能性:中

不動産業者の個人再生の可能性は、営業規模によって変わります。

まず、営業所を構えて独立開業している人が個人再生をした例は、当事務所ではありません。

不動産業者の負債は高額である場合が多く、事務所の維持費や生活費を維持しながら弁済用の資金を積み立てるのが難しいのが原因と思われます。

 

次に、フルコミッション(完全歩合)や一部歩合制の仲介に関わる個人事業主の再生については多くの取扱い実績があります。この場合、どこかの会社に所属していることで事務経費があまりかからず、所属する会社の知名度や宣伝広告により一定の集客が見込めることから、一定の収入が維持できれば再生しやすいといえます。

ただし、個人再生の準備から申立の間に、契約が取れずに大きく収入が下がったりして積立ができないと、断念せざるを得ない場合もあります。

 

7 整骨院(柔道整復師)、エステ、マッサージ業

整骨院、エステ、マッサージ業の特徴

整骨院とは、脱臼、捻挫や肩こりなどの症状をもつ患者に、有資格者(柔道整復師)が施術する施設です。

近頃は、スポーツ整体、姿勢矯正など特色を持たせる整骨院が増えており、健康保険の診療と自由診療を併用することが多いです。自由診療では、鍼灸やマッサージを実施する整骨院もあります。

また、背骨、骨盤などのバランスを整える整体やカイロプラクティック、リラクゼーションを重視したボディケアマッサージ、痩身や脱毛などを目的としたエステサロン、ネイルサロンなどは、(1)施術が主体であること、(2)仕入が少なく小規模で行えるサービス業である点で似ています。

以下では、これらをまとめて紹介します。

整骨院、エステ、マッサージ業の債務原因

これらの業種は、開業のハードルが低いため、毎年多くの人が開業を希望します。

しかし、競争が激しいため、うまく売上を伸ばせず、開業資金の返済ができずに借金整理を希望する例が多くあります。

個人再生による継続可能性:難

これらの業種で売上が低迷して返済が難しくなった場合、同業他社やまったく異なる業種でアルバイトをして収入を補うことがよく見られます。

時には2つ、3つとかけもちをして休みなく働く人もいます。このような働き方は長く続けるのが難しく、収支を改善することを第一に考えると、個人再生よりも自己破産を選択する方が良いと言えます。それでも、あえて個人再生を希望する人は、自宅や自店舗を残したいと考えているからです。

 

本業が厳しい中で個人再生を希望した事業者の中で成功する例は多くありません。

成功例の一つは、配偶者や子、親から収入の援助を受け続けたケースです。

また、開業時に高額な電療器具をリース契約している場合、リース料を支払いながら返済用積立を行い、生活費も稼ぐ必要があるため、実現は非常に難しいのが特徴です。もし、リースではなく融資で購入した器具がある場合、高額なら清算価値(資産)として評価され、再生の返済額に影響します。

まとめると、整骨院、エステ、マッサージ業で本業がうまくいかない場合、自力で再起する例はほぼなく、廃業するか、家族の支援を受けられるかどうかの判断が必要です。

 

8 ハウスクリーニング業

ハウスクリーニング業の特徴

ハウスクリーニング業では、エアコン掃除や台所、バス、トイレの清掃、排水溝の高圧洗浄、洗濯乾燥機の分解掃除などの時間のかかる汚れ落とし、新築や退去時の「洗い」と呼ばれる簡易な清掃作業など、多岐にわたるサービスを提供します。

ハウスクリーニング業は、フランチャイズ方式が一般的になっており、他業種の廃業後又はセカンドキャリアとして、フランチャイズに参加して独立開業する例が以前は多く見られました。

ハウスクリーニング業は、初期費用が飲食業に比べて安く、特別な資格が不要で、不動産・保険のような営業活動も不要であるため、参入しやすい業種です。ただし、固定客が増えないと安定した収益を挙げるのは難しいという特徴があります。

ハウスクリーニング業の債務原因

季節性の収入変動リスク

個人客を相手にする場合、初夏から夏にかけてはエアコン掃除、年末には大掃除の需要があり、大きな売上が見込めます。

しかし、年始から春や秋過ぎの閑散期には収入が安定せず、負債を増やしてしまうケースが多いです。

大口顧客からの取引中止リスク

コロナ以前は、飲食店の定期清掃や新築物件、賃貸物件の退去時の掃除など、法人の大口客との取引で収益を上げていた業者も多かったです。しかし、コロナ禍で契約が次々と無くなり、返済不能となる例が増えました。

個人再生による継続可能性:易~中

ハウスクリーニング業者の多くは、自宅を事務所として使用し、作業は出張で行うため、事務所賃料や光熱費は不要であることが多いです。

仕入れも洗剤、掃除用具程度でそれほど費用がかさむことはありません。定期的に仕事が得られれば、個人再生の可能性は相応に高いといえます。

なお、ハウスクリーニング業の個人再生希望者は、本業以外の債務原因を抱えている方が多い印象です。

前職で失敗し負債を抱えたまま開業した例や、浪費、家族の費用などで高額の借入れをして返済が難しくなった例などでは、負債額に応じた計画弁済額を毎月残せるだけの収入が得られるかが、個人再生の認可を分けるカギになりそうです。

 

9 (全事業者共通)所得と税・保険料負担の関係

金銭管理が難しい

給与所得者は、税金や保険料が給与から天引きされるため、毎月使える金額が予測しやすいです。

これに対して、個人事業者は時期ごとに支払う税や保険料を予想し、生活水準や返済計画を考えなければならず、収支管理が複雑になります。

以下、具体的に検討してみましょう。

自営業にかかる税・保険料負担

自営業者には所得に応じて様々な税金、保険料の負担が発生します。代表的なものとして以下が挙げられます。

  • 所得税:所得に応じて課せられます。累進課税制で、所得が増えるほど税率が上がります。
  • 市県民税:住んでいる自治体により税額が異なりますが、所得に基づいて課税されます。
  • 消費税:従来は、年間売上1000万円以下の事業者は納税しないで済みましたが、インボイス制度の導入により、納税が必要となる事業者が増えました。
  • 個人事業税:年間所得が290万円を超える場合、3~5%の税率で課税されます。
  • 国民健康保険料:所得に応じて計算され、地域や家族構成によって負担額が異なります。
  • 国民年金保険料:自営業者の場合、(20歳以上の)家族一人あたり月額約1.7万円を負担します。

 

税・保険料負担を考慮した可処分所得

たとえば、月売上40~50万円(年収500~600万円)の自営業者の場合、一人親方やウェブデザイナーなど経費が少ない職業では、年間で300万円以上の所得が見込まれることがあります。この場合、以下のような負担が予想されます。

  • 所得税と市県民税:年間40万円以上
  • 国民健康保険料および国民年金保険料:年間50~70万円以上
    (※いずれも、世帯人数や年齢、地域によって異なります。)

 

これらの税負担を考慮すると、毎月8万円程度を税や保険料の支払いに残しておく必要があります。

さらに、再生債務の返済のためには、標準的には3~5万円、元金が1500万円を超える場合には8万円程度の積立が必要です。

また、前年度の税金や国保料を滞納している場合、延滞税の増額や差押を回避するために毎月数万円ずつ支払う必要があり、結果として月に使える生活費(住居費含む)が20万円を下回ることもあります。

自営業を長年営んでいる方でも、こうした収支予測が十分にできる方は多くなく、「返済を止めさえすれば収入があるから何とかなる」と思って個人再生の準備に入ったものの、返済用積立が不足したり、水道光熱費や住宅ローンを滞納する例が少なくありません。

 

赤字申告と個人再生の見込

税負担を軽減するために、実際には経費として認められない支出(例えば、返済金の元金や日常の食料品、趣味の購入品など)を経費に計上し、所得を赤字またはほぼゼロにして申告している自営業者はそれなりに多いです。

しかし、弁護士が介入した後は、このような申告内容は認められません。

また、赤字申告に基づいて個人再生を申し立てようとしても、裁判所から履行可能性が認められない可能性があります。

とはいえ、適正な所得額を申告すると、以前には考えられなかったほどの税金、国民健康保険料が増加し、手元に残るお金がほとんどなくなる現実に直面することもあります。

この状況下で、個人再生を成功させるためには、より慎重で現実的な収支計画が不可欠です。

収入と負債状況に応じた個人再生の可能性

当事務所の経験によれば、年収500~1000万円前後で、月々の粗利(売上から事業経費を引いた額)が40万円以下の自営業者(店舗なし・家族あり)の場合、住宅ローンや税金(国保料)の滞納がなければ、負債1000万円程度(弁済総額200万円)であれば、毎月4~5万円ずつ返済に充てて個人再生を成功させることが可能なケースが多いです。

ただし、これらの条件を外れる場合、たとえば粗利が不足していたり、負債額が多すぎたり、滞納があって税負担が重い場合、自力での再生は非常に厳しいことがあります。

こういった場合には、家族の収入援助を得るなどによって何とか再生認可にこぎつける例もあります。

 

10 まとめ

以上のように、個人事業主は事業収入が安定しないことや、受注に失敗することで返済が難しくなることがあります。

また、会社員に比べると、手元のお金を管理するのが難しく、それが個人再生の進行に影響を与えることが多いです。

 

個人再生を行いながら事業を続けられるかどうかは、業種によって異なります。

例えば、一人で仕事をしている大工やフリーランスの美容師、プログラム関連の仕事をしている人などは、個人事業主でも事業を続けやすいです。しかし、飲食業や整骨院、エステなど、固定経費を負担する業種では、事業の継続が難しいことが多いでしょう。

 

個人再生の認可を得るためには、「返済できる見込みがあるかどうか」を裁判所に説明する必要があります。

そのために、事業の収支を正確に報告しなければなりません。過去の税務申告で虚偽の報告をしていたり、赤字や収入がほとんどない場合は、裁判所に返済できる見込みがあると認めてもらえない可能性があります。

 

監修者情報

弁護士

吉田浩司(よしだこうじ)

専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)

2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。