手続き全般について

個人再生が困難になるケースとは?

個人再生手続の準備を進めていく中で、このまま個人再生手続きを進めるのは難しいと思う事情に出くわすことがあります。

そうした事情にしっかり対処せず個人再生手続きを進めると、裁判所へ申し立てたあとで思わぬ落とし穴にはまることになります。手続き進行までに時間がかかる、個人再生委員を選任されて費用がさらに増える、あるいは手続き自体を取り下げたり、自己破産手続きへの移行を余儀なくされることもあり得ます。

そうした落とし穴にはまらないように、どういった事情があれば個人再生を円滑に進めるのが難しくなるか、いくつかの事例を確認しましょう。

 

個人再生が難しくなるケース

  1.  不動産の時価が上昇
  2.  収入が不安定
  3.  資産価値の評価が困難
  4.  税金、住宅ローン等を滞納している

 

1 不動産の時価が上昇

近年、都市部を中心に不動産価格が上昇しています。数年前に住宅ローンを組んで自宅を購入した方が個人再生手続を進める場合、清算価値保障原則との関係上、債務を圧縮した金額ではなく自宅の清算価値が返済総額となり、返済総額や返済月額が想定よりも増加してしまうケースがあります。

これは、不動産価値がアンダーローンのケースで散見されます。

アンダーローンとは、住宅ローンの残額より不動産の時価の方が高く、いわば「不動産を売れば残りの住宅ローンも全額返済できるし、手元に資金も残る」という状態です。

 

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それなのに、個人再生手続きを進めると返済総額や返済月額も多額になり、結果的に返済を続けるのがしんどい・・ということになりかねないのです。

 

2 収入が不安定

個人再生手続きでは、一定以上の収入が確保できないと再生計画を実行できません。「再生計画に基づく返済を確実に履行できること」これが再生計画を認可してもらうための必須条件です。

しかし、収入がとても不安定な職業に就いている人や、失業中の人々にとって、この条件を満たすこと大変困難です。

履行可能性の確保が困難な人とは、例えば以下のような職業の人々です。

個人事業主(フリーランス含む)

プロジェクト単位で仕事を受けるIT関係者、デザイナー、建設業者(一人親方)などの個人事業主は、収入が月ごとに大きく変動することがあります。

派遣社員や契約社員

派遣契約や短期の契約で働いている方々は、契約期間が終了すると収入が途絶えるリスクがあります。次の仕事がすぐに見つからない場合、収入が不安定になります。

パートタイマーやアルバイト

パートタイムやアルバイトで働く人々も、勤務時間やシフトが不規則な場合が多く、収入が安定しないことがあります。

不定期収入の職業

歩合制やコミッションベースで働く保険外交員、不動産仲介などの営業職、チップが収入の大部分を占める職業(例:ウェイター、バーテンダー)などは、月々の収入が変動しやすいです。

季節労働者

農業、観光業、イベント主催など、特定の季節や時期にのみ需要が高まる仕事をしている人々は、オフシーズンには収入が激減することがあります。

 

収入の増減幅の大きいお仕事の場合、前年度実績などをもとに、月々の最低限の収入をベースに返済計画を立てることがあります。

最低限の収入だと生活費で精一杯で、返済に回せない場合、同居のご家族のご協力を得て、家計の収支を合算することで返済が可能か検討します。

それでも収入が不足する場合、副業を始めて複数の収入源を用意したり、安定した仕事の供給先を確保する必要が出てきます。

 

3 資産価値の評価が困難

個人事業主の中には、特殊な事業用資産を保有していて資産価値の評価が困難な場合があります。それだけではなく、思いのほかに高額の資産価値査定を受けることもあります。

また、個人事業のなかには、売掛金が多額にのぼることもあります。整骨院の保険診療請求権などは、請求から回収までに第三者機関による管理等が介在し、回収までに2~3カ月かかることもあります。

さらに、売掛先の経営難などにより回収が長期分割にわたる場合、額面通りの資産評価だと困る場合も出てきます。

このような資産を保有する場合、清算価値保障原則との関係から返済総額や返済月額に大きく影響を与えることもあります。

 

4 税金、住宅ローン等を滞納している

個人再生手続を使って事業や自宅を残したいにもかかわらず、住宅ローン(管理費含む)を2か月以上滞納している方、10万円を超える税金(固定資産税、自動車税、消費税、市県民税)を滞納している方は、再生の認可を得るのが難しくなるかもしれません。

再生計画の認可を得るためには、現在の収入で事業経費や生活費を支払ったうえで、毎月3万円~8万円程度の余剰が残ることを裁判所に示す必要があります。

住宅ローンや税金を滞納していると、再生の申立てまでにはこれらの滞納を解消しておくことが最善です。それが無理な場合は、再生計画による月額弁済額に加えて、これらの滞納金の分割払いを続ける必要があります。

再生計画の弁済金3万円なら払える見込みがあっても、滞納税や住宅ローンの解消が見込めないため、再生申立を断念するといったケースも考えられます。

 

 

さいごに

個人再生は負債の80%~90%を減免してもらえる画期的な制度です。つい減額率に目がいき、収支のバランスが取れるかは二の次になってしまいますが、早いうちから返済余力をある程度具体的に把握しておく必要があります。

また、保有資産の評価については、正確なところは個人再生の経験が豊富な弁護士、司法書士に相談したほうがよいでしょう。

 

上記のような事情を抱えている場合は、個人再生手続きを円滑に進めるため、実際に返済が出来なくなるよりも早めに、相談されることをおすすめします。

 

 

監修者情報

弁護士

吉田浩司(よしだこうじ)

専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)

2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。