再生を決断する時 500万円、1000万円の壁
どのくらいの債務額になると個人再生が必要になるのでしょうか。
当事務所に相談に来られる方のうち、住宅ローンを除いて、個人で3000万円、5000万円の債務を負担しておられる方はほとんどいません。当事務所で個人再生を利用される方の債務額は500万円以上から1000万円前後がもっともおおく、それ以下、それ以上の方は比較的少ないのが現状です。
今回は、当事務所で扱う個人再生事件の債務額と、それぞれの金額帯で特徴的な問題点や利用者の例をご紹介いたします。
※以下で説明する再生債務の総額には、住宅ローン特約を利用する場合の住宅ローンを含みません。また、各債務額に応じた相談の特徴は、あくまでも当事務所に限った傾向です。
他の事務所、地域では異なる可能性があることをご理解ください。
債務額別 個人再生事件の特徴
500万円~1500万円(一番利用が多い金額帯)
再生手続きの最低弁済額は5分の1(100万円から300万円)になります。
減額効果は400万円から最大1200万円まで見込めるので、成功すれば収支は大幅に改善されるでしょう。
債務総額500~1500万円の金額帯で依頼される方は、年収500万円以上の給与収入があり、単身者よりも、共稼ぎでご家庭をお持ちの方が多いです。
個人事業主での利用もあります。業種は、一人親方(内装業、電気工、防水工、解体工など)、ウェブサイト制作ほかフリーのデザイナー、生命保険外交員の方々の利用が目立ちます。
また、ここ3年ほどの特徴として、インターネットで債務相談を検索して任意整理したものの返しきれなくなって、個人再生を希望される方からの相談が増えています。
500万円以下(対象者は多いが利用は少なめ)
債務総額500万円であれば、総額の80%が減免されます。
しかし、再生手続きには最低弁済額があり、100万円以下には減額できません。
債務総額300万円以上あれば減額効果を実感しやすいです。しかし、債務額200万円以下になると減額効果はとても小さくなります。
そのため、比較的少額の債務の場合、個人再生の費用対効果としては良くないこともあります。そのような場合、弁護士のアドバイスを聞いたうえで、任意整理または自己破産を選択される方もいらっしゃいます。
一方、職業上破産ができない場合、心情的に破産は絶対に避けたいとの考えがある場合は、費用対効果を考えたとしても、あえて個人再生を選択する方もおられます。
さらに、まれな例ですが、「住宅ローンの巻き戻し」を利用するために、債務額は200万円以下でも、あえて個人再生を申し立てる方もいます。【住宅ローンの巻き戻しとはなんですか】
この金額帯で個人再生を利用する方は、給与収入の方がほとんどです。本人の収入だけでは返済が難しくても、家族の収入を合わせて月額3万円程度の返済が可能であれば再生を利用できます。
1500万円~3000万円(収入、財産に注意)
債務額1500万円を超えると、総額3000万円まで、再生手続きの最低弁済額は、一律300万円になります。
再生による減額効果は1200万円~2000万円以上になるので、成功すれば劇的な収支改善となります。
ただし、再生の認可を得るには、原則として毎月約8万4000円(3年間)を継続して支払える見込みが必要です。特別の事情があって5年に延長できても、最低5万円の積立が必要です。
このような積立額を続けるには、相応に高い収入があるか、もしくは家族共稼ぎ、実家暮らしなど周りの協力が得られる状況が必要になります。
さらに、収入があり、家族もいる利用者の場合、(見込)退職金、家族名義の積立式の保険など財産もあるので、とくに「清算価値」にも注意する必要があります。【清算価値保障の原則とは】
債務総額1500万円以上の金額帯で利用する方の多くは、年収600万円以上の給与所得者、あるいは自営業者です。(※ 当事務所では年収だけで個人再生の可否を判断するわけではありません)
3000万円~(複合的な問題を抱える)
債務総額3000万円を超えると、再生手続きによる減額幅は90%になります。総額の10%だけ返済すれば残りは免除されることとなり、減額効果は絶大です。
それでも、おおよそ月額10万円以上を3年から5年にわたり支払っていく見込収入が必要になるので、利用層は相当限られます。
住宅ローン以外で債務額が3000万円以上に積みあがるのは、そのほとんどが事業債務(保証債務含む)なので、利用者するのは、個人事業主又は元会社代表者など役員になります。
この金額帯の個人事業主は、店舗を経営していたり、従業員を複数雇用していたりして事業が組織化しています。そのため、申立前には、事業の縮小や合理化、再生期間中の資金繰り計画などを準備しておく必要があります。
また、(元)会社役員の方は、多くの場合、廃業した法人の法的処理や、辞任、解任になった元勤務先との清算問題を抱えています。
こういった事例では、申立前に債権回収や(元)勤務先との交渉を済ませたり、先に法人を破産させておくなどの対応が必要になってきます。
このように、3000万円規模の個人再生事件では、資料をそろえてすぐ申立できる事件はほぼなく、課題が山積みになっていることが多いです。
個人再生申立後も、基本的には再生委員が選任されて、財産評価や、過去の使途調査、履行可能性の判断など様々な指摘が入ってきます。
この規模の再生申立を行うには、破産法、民事再生法に関する知識があることは当然として、税務・会計や資産譲渡、労働法、会社関係に関する法律の知識と経験を備えた専門家が扱う必要があります。
そういった準備もなく、事件を引き受けてしまうと、ベテラン弁護士でも方針が定まらず、申立前後に大きな混乱が生じる危険があります。
まとめ
個人再生は、元本が8割以上減額されるという効果が期待されますが、債務額が少ないとメリットはそれほど大きくありません。
当事務所では、500万円以上から1000万円前後の債務額の方が利用する例が多くなっています。
1500万円を超えると、個人再生の要件を満たす事例が限られてきます。
3000万円超の再生案件は複合的な問題に対処する必要があるため、引き受けてくれる弁護士選びには慎重になったほうが良いでしょう。
個人再生の利用を検討しておられる方々からいえば、苦しい返済が続けば続くだけ債務総額は大きくなり、それに伴って再生が難しくなるといえます。
返済が厳しいと思い始めたら、依頼するかどうか悩むより先に、出来るだけ早めに弁護士に相談してください。
当事務所では、相談者の職業、収入、家族構成や債務の内容に応じて、再生が可能か、したほうが良いかなど来所によりご相談いただけます。
気になる方は、【ご相談予約フォーム】から申し込みの上相談予約をお願いいたします。
(誠に勝手ながら、現在、電話、メールでの相談はお受けしておりません。)
※注意事項
上記の債務額には住宅ローン特約を利用する場合の住宅ローン債務を含みません。
あくまでも当事務所の例であり、一般的な利用割合とは異なります。
返済額の見込みは、小規模個人再生手続きによる場合を想定しており、給与所得者等再生手続による場合の可処分所得や、手持ち資産が最低弁済額を上回る場合(清算価値保障)の返済事案を対象としていません。
監修者情報
弁護士
吉田浩司(よしだこうじ)
専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)
2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。