個人再生委員選任の実情
個人再生委員とは、裁判所が選任する公平中立な機関で、代理人とは別の弁護士が選ばれます。
主な職務としては、
・申立人の財産および収入の状況を調査すること
・申立人が作成する再生計画案について、必要な勧告を行うこと
・届け出のあった債権額を評価すること
などがあります。
なぜ個人再生委員が必要なのか
個人再生手続は、申立人の財産状況によって弁済率(返済額)が変わり、また収入や家族構成、家計見通しによって再生計画案(返済計画)も変わる複雑な事件です。
そのため、財産を詳しく調査して裁判官に報告をしたり、再生計画案を作成する際に適切な指示をする再生委員が選任されるのです。
どの裁判所でも、本人が申し立てた場合には、再生委員が選任されるようです。
また、東京、水戸、新潟、長崎、熊本の管轄裁判所では、弁護士が代理人であっても、すべての申立事件に再生委員を選任する運用がなされています。
その他の裁判所では、事業者などで保有財産が多く評価が難しい場合や、債務額が高額な場合、また債権者が届出した債権額について食い違いがあり評価が必要な場合などに限って選任される運用がなされています。
(大阪地裁での具体的な選任基準と事例については、コラム「個人再生委員が選任される事件」に詳しく記載しています。)
個人再生委員が選任された場合の費用
再生委員が選任されると、裁判所に予納金を納めなくてはなりません。
この予納金は、後日、再生委員が受け取る報酬となります。
予納金は、各裁判所のホームページなどに明記されている場合もあります。
ここでは、全件選任の代表例である東京地裁と、近畿圏内の裁判所について、予納金の額を比較してみましょう。
東京地裁
本人申立 25万円
弁護士申立 15万円
大阪地裁
本人申立 (記載なし)
弁護士申立 30万円
京都地裁
本人申立 15万円
弁護士申立 20~30万円
神戸地裁
本人申立 (記載なし)
弁護士申立 33万円
大津地裁
本人申立 (記載なし)
弁護士申立 15万円
和歌山地裁
本人申立 30万円
弁護士申立 20万円
奈良地裁
本人申立 (記載なし)
弁護士申立 15万円~20万円
個人再生手続は、手続きが複雑で専門性が高いため、本人申立は全国的に見てもほとんどありません。そのためか、本人申立の際の予納金額を公開している裁判所は少ないようです。(公式ページには「担当部署に直接お問い合わせください」と記載されていることが多い)
また、東京・和歌山では本人申立の場合、再生委員の負担が大きいことを考慮して弁護士申立の事件より高額に設定されています。
金額に幅がある地域は、事件の内容によって裁判所が予納金を決定するためです。京都地裁では、実際に当事務所が申し立てた事件で、予納金30万円の例と、20万円の例がいずれもあります。
再生委員を選任されないために
上記のように、個人再生委員が選任されると、少なくとも15万円以上の費用が別途必要になります。また、裁判所が決定を出す前に個人再生委員の意見を聴く期間が設定されるため、個人再生手続きが終わるまでの期間も延びます。
財産の評価が不明瞭だったり、履行可能性が不安視されるなど、申立前に問題点がわかっていれば、それを事前に解消することで再生委員選任を避けられる可能性があります。
全件選任必須の地域でなければ、個人再生委員が選任されないようにしっかりと準備をしてから申し立てをしたほうがよいでしょう。
※選任基準や予納金額の例は、本コラム作成時点のものです。将来、各地の裁判所の判断に応じて変更になる可能性があることをご理解ください。
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監修者情報
弁護士
吉田浩司(よしだこうじ)
専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)
2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。