統計データから読む個人再生事件2
日弁連が作成した「2020年破産事件及び個人再生事件記録調査」について、前回に引き続き個人再生事件の実情を統計データにもとづき、お伝えします。
認可率は90%以上
個人再生申立事件の終結結果のうち、認可決定(認可率)は約92%にのぼっています。
再生事件が履行可能性や債権者の意見によって認可されないことを心配されている方には、勇気づけられる数字ではないでしょうか。
一方、取下げ、棄却、不認可、廃止等で目的を果たせなかった申立は約7%となっており、そのうち半数以上は取下げによるものです。
裁判所の書面審査により、棄却や不認可にあたる事情が確認された場合には、代理人弁護士に対し、取下げの勧告が行われます。
裁判所の勧告に対し、意見や資料を補充して再検討を促すことも可能ですが、実情としては、棄却決定を受けるくらいなら取り下げておく、と判断する場合が多いのではないでしょうか。
履行可能性がないと判断されて取り下げたとしても、近いうちに年金受給開始や子の独立などで収支に改善が見込まれる場合、しばらくしてから、もう一度再生を申し立てることもできます。
不同意で通らない再生事件は2%
小規模個人再生のうち、不同意意見が出た事件は全体の6%程度です。
金額の過半数を持つ債権者から不同意意見が出たのはそのうち34%程度であり、事件全体の約2%となります。
このことから、債権者が反対して小規模個人再生が通らなかった事件は、全体の約2%であると言えます。なお、頭数で過半数を超えた事件はありませんでした。
当事務所の実感としても、登録貸金業者や金融機関が不同意の意見を出すことはめったにありません。
ただし、総債権額の過半数を有している場合だけ不同意意見を出すという、小規模個人再生手続きにおいてリスクの高い債権者(例:楽天カード等)もありますので、注意が必要です。
個人再生委員の選任
まず、東京、水戸、新潟、長崎、熊本の管轄裁判所では、すべての申立事件に再生委員を選任する運用がなされています。
また、小規模個人よりも給与所得者の場合に再生委員が選任されやすい傾向があります。
全国の事件のうち、再生委員なし事件が78%程度です。大阪では90%以上が再生委員なしとなります。このように、すべての再生事件に再生委員を選任する地域の割合はそれほど多くないようです。
選任された事件でも、債権評価手続きのみという特殊なものが4%、全職務にわたり再生委員が選任されるのが15.6%となっています。このうち、全件選任の地域(関東圏と九州の一部)があることを考えると、それ以外の地域では再生委員選任の可能性は10%以下といえます。
※ 元データ一部抜粋、数字はサンプル件数:再生委員選任件数
大 阪 50:1
神 戸 15:0
京 都 13:0
大 津 13:0
名古屋 27:1
この数字を見ると、全件選任の地域以外は、再生委員が選任されるのは、まれなケースだとわかります。
これからの個人再生
15年間の推移を見ると、前回のような「申立人側の事情」(債務原因など)は社会情勢などによって変動はありますが、裁判所での手続きとしては大きな変化はないようです。
再生委員選任についても、全国的に全件選任へ向かうような大きな動きは見られません。
申立後の審理期間については、大阪をはじめとする各地の裁判所が短縮を図っていました。
しかし、コラム「個人再生手続の具体的な流れ」で説明したように、開始決定以降の期間はほぼ固まっているようです。
再生債務者にとっては、支払を一旦停止してから、減額された債務を支払い始めるまでの間に、家計を改善し、少しでも返済用の資金を用意する時間の猶予が大切です。
そのため、受任から申立~認可後に支払い開始するまで、ある程度の時間がかかっても、やむを得ないのではないかと考えます。
そのほか、書類の電子化、働き方や住処の多様化、在外邦人の問題など、社会の変化に現行法が追いついておらず、様々な不便や不明瞭な点が生じているのですが、また機会があればその点についてもご紹介したいと思います。
監修者情報
弁護士
吉田浩司(よしだこうじ)
専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)
2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。