預貯金通帳からわかること―再生手続における通帳の留意点2
支払停止前後の預金の動き
今回は、裁判所が預金の動きに注目する点、申立人が気を付ける点について、解説します。
1 個人名・法人名の入出金
個人再生手続を受任したあと、弁護士は債権者に対して受任通知を発送し、返済を一律に中止します。この通知は、債務者がもはや通常どおり債務を返済できないことを外部に示すもので、法律上「支払停止」として扱われます。
支払停止後、一部の債務を返済する行動は偏頗弁済(へんぱべんさい)と判定され、再生手続では、支払った金額相当を手持ち資産として総資産に計上されます(コラム「偏頗弁済とは」)。
また、支払停止直前の弁済であっても、事情によっては偏頗弁済と判断される場合もあります。
そのため、裁判所では、支払停止前後の通帳の履歴により、特定の人物や会社への出金、不自然に高額な出金がないか、入念に確認します。
特に個人間の入出金は、緊急の融資や、破産・再生前の親類縁者への優先的な返済を疑われやすいです。
そのため、当事務所でも、支払い停止前後の個人間の入出金に関しては、あらかじめ、申立前に詳細に事情をお聞きすることがあります。
2 賭けごとに関する入出金
再生手続き中の遊興費について、賭けごとが原因で債務が増えた方は当然ですが、そうでない場合でも、支払い停止後の賭けごとに対して、裁判所は厳しい態度を示します。
支払が困難なため債務整理の相談を弁護士にしたにもかかわらず、賭けごとを継続するというのは、限りある収入を適切に管理する能力が欠けており、個人再生手続に基づく返済を最後まで払い終えることは難しいと判断されます。
そのため、JRA、テレボート名目の入出金など賭けごとを行っていることが疑われる事情があれば、詳しくお聞きする必要がありますし、弁護士への依頼後に依頼者が続けていることが発覚すれば、辞任(事件処理の中止)する場合もあります。
3 FX、バイナリーオプション、仮想通貨取引(ビットコイン等)
FX、バイナリーオプション、仮想通貨(暗号資産)の取引は、少ない資金で大きな収益の可能性がある反面、一瞬で証拠金(資金)を失う危険があります。
そのため、再生申立に関しては、これらの取引が原因で債務が増えた場合でなくても、債務整理を依頼した時点で止めていただくことをおすすめしています。
4 銀行が債権者の場合
特定の銀行に借入れがあり、同時に同じ銀行(支店が違っても同じ)に預金口座がある場合、受任通知の発送によって支払停止を知った銀行が、債務者の口座を凍結する可能性があります。
もし、凍結された口座で水道光熱費の支払いや携帯電話の支払いを行っていた場合には、引き落としができなくなってしまいます。そのため、凍結が予想される口座は事前に対応を要し、支払方法を振込用紙などに切り替える必要があります。
反対に、受任通知を発送と口座凍結手続との時間差により、口座振替などで債務を支払ってしまうこともあります。
こうした場合、債権者に事情を説明し、場合によっては支払った金額を返還してもらいます。
支払停止前後の預金の動きは、それ以前に比べて裁判所から特に注意深く確認されます。
また、支払停止によって預金が凍結されて思わぬ混乱が生じることがありますので、注意が必要です。
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監修者情報
弁護士
吉田浩司(よしだこうじ)
専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)
2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。